その1.水炊きのルーツを探る
よそから来ても、うちのもん。
博多を代表する郷土料理・水たきは、典型的な日本の鍋料理と思われがちですが、この料理のルーツが西洋料理と中国料理の両方にあるということは、意外と知られていません。
水たき発祥の店として知られる「水月」(現在、福岡市中央区平尾3丁目で営業)の創業者で長崎生まれの林田平三郎氏は、15歳の頃に料理の勉強のために香港に渡り、英国人の家庭に住み込みました。そこで学んだ西洋料理のコンソメと中国料理の鶏の水煮を日本人の口に合うように工夫した林田氏は、博多で店を開いて大評判となりました。こうして生まれたのが、博多の水たきなのです。
まずスープ、次にお肉。そして、つくねや野菜、豆腐などの具を煮て、すべての具材の旨味が染み出したところで麺や雑炊で締める。
鍋料理なのにコース料理のような流れでいただくのも、博多の水たきならではの特徴です。
はるか昔から、博多は大陸のさまざまな文化を受け入れてきたお土地柄。承天寺を開いた聖一国師は、中国からうどんや蕎麦、饅頭の 製法を持ち帰り、聖福寺を開いた栄西禅師はお茶の文化を伝えました。鶏卵素麺はもともと長崎経由の南蛮菓子ですし、辛子明太子は戦後、大陸からの引揚者によって広められたもの。
「博多の文化の特長は、よそから来たものをうまくアレンジして、あたかも自分のところの特産みたいにしてしまうことです ね」とは、博多町人文化連盟の初代事務局長で風俗史研究家の帯谷瑛之介さん(故人)の弁。水たきも、すっかり博多の郷土料理として、全国的に親しまれています。
(参考文献/まるごと福岡)